水墨画豆知識3(水墨画和紙、描画技法)
水墨画で使う紙を総称して画仙紙といいます。 雅仙紙、雅宣紙、画箋紙と書くことも
あります。
大きく分けて、中国製と日本製がありますが、中国製はにじみの墨跡が強く、日本製は
墨の濃淡が美しいといわれます。
画仙紙は洋画紙に比べて、繊維が密ではなので、水に乗って墨の細かい粒子は、紙の厚
さ方向にも入りこみ、定着します。光の反射は表面からの強い反射光と、紙の内部の淡
い乱反射光とが混ざり、奥深い灰色を作ります。
このような画仙紙の性質に水墨画の付立筆で筆に含む水量、墨の分布、運筆の速度や
角度など自在に操作して、面を主体にし(線の同時に描ける)陰影を描くのです。
特に、この陰を物体に沿って滑らかに描くことで、日本画や漢画にもなかった深み
のある立体画像が描けるのです。
水墨画の主な技法
水墨画は、墨の濃淡で明暗を付けますが、それ以外にも「筆に付ける墨の量」、
「墨をつける筆の位置」「描くときの筆と紙面との角度」「筆を運ぶときの勢い・
速さ・強弱」、および「筆の大きさと穂先の長さ・硬さ」などを使いわけることで、
いろいろな味わいのある表現ができます。これらを複数を組み合わせて描くことで
単純な濃淡・明暗の付いた線や面ではなく、多種多様な「ぼかし」、「かすれ」、
「にじみ」、「陰影」、「グラデーション」などが表現できます。そのため、墨の
黒一色にもかかわらず「奥深さ」、「立体感」、「存在感」、「スピード感」、
「生命感」などのほか、(豆知識4に記載した)人や動物が感じる多様な感覚を
生み出す自然環境までをも表現を可能にしています。
水墨画の主な技法
破墨法:先に淡い墨色で輪郭を描き、次にやや濃い墨色で輪郭の内側を塗りつぶし、
ぼかしを入れて、最後に濃い墨色で要所、要所に輪郭線や塗りつぶしを入れて描く技法
です。
溌墨法:大量の淡い墨色で絵を大まかに描き、そこに濃い墨色をたらして、濃淡・
ぼかしを付けて描く技法です。あるいは、大量の淡い墨色、濃い墨色を付けて、
はね散らすように素早く描いて濃淡やにじみを付けて描く技法ともいわれます。
積墨法: 淡い墨色でまず輪郭線を描き、その内側を、淡い墨色や少し濃い墨色を
重ねながら徐々に濃い色にして描く方法です。破墨法の方法を使いながら、破墨法
よりも絵に柔らかさを加え、かつ重厚感と上品な立体感が表現できる技法です。
鉤勒法: 例えば竹の笹の葉などを描くときに輪郭線を細い線で描き、その中を塗
りつぶして描く技法です。
付け立て法(没骨法): 輪郭線を描かずに筆で塗りつぶすようにして、例えば竹の
笹などの面を描く技法です。線と面を一気に描けるため、生き生きした絵となります。
直筆法: 筆を紙に対して垂直に立てて、主に線を描く方法です。
側筆法: 筆を紙に対して倒し、筆の穂先をより広く使い面を描く方法です。
潤筆法: 筆の穂先に墨をたっぷりに含ませて、にじみを出したい時に使われる技法
です。
渇筆法: 筆の穂先に付ける墨の量を少なくして、かすれを出す時に使われる技法です。
たらしこみ: 淡い墨で描いた箇所の上に濃い色の墨をたらして、墨が混じりあって
偶然できる予期しないにじみを絵に加える技法です。日本の軟水と和紙は水の浸透が
良く、日本で発展した技法です。にじみは質感や立体感を生みだします。
片ぼかし: ぼかしの方法の中で片側のみをぼかす方法のことです。まず筆全体に
淡い墨を付けて、その後に濃い墨を穂先に付けて側筆法で描くことで片側をぼかして
描けます。対象物の内側や外側をぼかすことで陰影ができ、立体感や遠近感などを表現
できます。
以上のような技法の観点から絵を鑑賞するのも、作者や絵の意図を汲み取る助けにな
ります。